Uターン夫婦が始めた地域の居場所「A-BASE」。
他人軸を手放して、自分が「やってみたい」の当事者になること
鯖江市でさまざまな活動を行って盛り上げている人たちの動きを、もっともっとたくさんの人に発信するべく、活動の当事者たちに密着し、レポートをまとめる『つくる、さばえ研究課』。
今回は「まちづくり」と「ことづくり」に焦点を当て、コミュニティ拠点づくりに力を注ぐ「A-BASE」の加藤さんご夫妻(夫・大喜さん、妻・未千子さん)にインタビューのご協力いただきました。

福井県鯖江市大倉町、田んぼに走る風が心地よいのどかな風景が広がります。おや?なんだか素敵な木枠の窓が目を引く場所がありますね。こんにちは〜!



今回インタビューにご協力くださる加藤さんご夫妻です。2024年春から、夫・大喜さんの祖父の倉庫の改修を始め「A-BASE(エーベース)」という地域の居場所づくりに取り組んでいます。産声をあげたばかりのA-BASEに込めている想い、そしてこの場所でつくろうとしている未来についてたっぷりお話を聞いてきました。
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子どもを機に、「帰りたくない」鯖江へUターン
-「簡単に自己紹介をお願いします」
大喜さん:加藤大喜と言います。鯖江出身で、就職を機に自分のことを誰も知らない所に行きたいと思って、能登半島の珠洲市に行きました。その後に埼玉と東京へ。言語聴覚士として訪問リハビリと病院勤めをしました。
未千子さん:私は珠洲市出身で、能登から出たことがなかったんです。作業療法士という資格を持っていて、珠洲の総合病院に勤めていた時に、(大喜さんと)出会いました。その後お付き合いをして、結婚も兼ねて一緒に東京に行きました。
思わず「大喜さん、出てよかったですね〜!」と言わずにはいられない二人の出会い。東京で1年弱を過ごし、2024年9月に鯖江にUターンしました。
-「Uターンのきっかけは何でしたか?」
大喜さん:僕は本当に帰りたくないと思っていて。嫌だったんですよね。でも、ちょうど妊娠がわかったタイミングでした。
未千子さん:東京で2人だけで子どもを育てる自信がなくて。どちらかの実家に近い方がいいなと思っていたのですが、そのタイミングで珠洲の地震が起きて、うちの実家も解体することに。頼るなら福井の実家かなということで、福井に戻りたいと言ったんです。

2人は、子どもを機に大喜さんの実家がある福井県鯖江市にUターンを決意。しかし、東京での生活と比べて福井での生活は、やりたいことに出会える速度や情報、選択肢の点で懸念も拭えませんでした。そこで「ないなら自分たちでそういう場所をつくってみようか」と気軽にこぼれた一言が、本気の構想へ変わっていきました。
最初に着手したのは、大喜さんの祖父の数十年使われていなかった農機具倉庫。倉庫内を片付けたり、DIYで改修しながら少しずつ場づくりを始めました。2024年春、「はじまり(アルファベットのA)の場所」「えぇ場所」という意味を込めてA-BASEと名付け、新しい人や物事に出会える挑戦の場として産声をあげました。A-BASEはアルファベットを並び替えると「SABAE」となるアナグラムにもなっています。
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もう他人軸は手放そう、A-BASEをつくるふたりの原体験
-「A-BASEは新しいことに出会える、挑戦できる場であることを大切にしていますね。なぜ大切にしようと思ったのでしょうか?」
大喜さん:ここは、 知り合いの知り合いが知り合いみたいなもので、みんなに見られている感じがすごく息苦しくて。例えば僕が中学生の時、友達とショッピングセンターに行ったら、たまたま友達のお母さんに見られて、家に帰ったら母親に「あんた〇〇にいたんやって?」と言われるとか。監視されてるようですごく嫌でしたね。僕自身がそうやって感じていたことを、実際みんな同じように思っているのかな?と思って、県のアンケートを調べてみたら、やっぱりそうでした。何が幸福度1位なのって。じゃあ、なんでみんな解決しようと思わないんだろうって。物事を他人軸で決める人が多いんじゃないのかなと思いました。文句は言うけど、何もしないできない。できない理由を考えると、周りの目や挑戦するためのハードルだったり、いろんなブロックがあるなと。それを限りなく取り除いたら、やりたいことを止める理由がなくなると思いました。

未千子さん:私も珠洲にいた時は、他人軸でした。意見も全然言えないし、聞かれても分からないって答えてました。なので、私はやりたいこともなくて。地元で就職して、ずっとそこにいなきゃいけないっていう変な考えを勝手に持っていました。そこから(大喜さんが)仕事を辞めて、「辞めていいんだ!」って。自分も仕事を辞めたのがきっかけで、いろんなことに挑戦することって楽しいじゃんって、ここ数年で思うようになりました。
-「すごく胸を打たれます…。ここをつくることも、監視社会や他人軸の息苦しさを突き破ることだったのかなと思います。その原動力は何ですか?」
大喜さん:僕は2つあって、1つは僕が納得できないことをできない。やらされ感が嫌いなので、能動性を大事にしたいなと。自分が欲しいなと思う場所をつくりたいです。もう1つは、子どもが生まれて次の世代のことを考えた時に、僕は文句を言って鯖江を出た立場なのに、同じ環境を残したら僕が思っていた「嫌だなー」の人に僕がなっているなと思って。なので、そうじゃない場所を自分の息子や次世代に残したり、やりたいことをやる自分たちの姿を見せたりできたらいいなと。

未千子さん:私みたいに他人軸で行動を起こせない人は、きっといっぱいいるだろうなと思います。挑戦できる場所ができたら、自分は一番の理解者でいたい。挑戦が楽しいと思う人が増えたら自分も嬉しいし、この子たちのためにもなる。
A-BASEの根幹には、大喜さんが感じてきた息苦しさや、未千子さんが抱えていた他人軸で生きる窮屈さという、2人の原体験がありました。息苦しさや葛藤を誰かのせいにせず、「じゃあ自分たちはどうする?」と問い直して生まれた場所こそ、A-BASEなのです。
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名前も肩書きも脇に置いて、「なりたい自分」でいられる場所づくり
-「A-BASEの活動する上で大切にしていることは何ですか?」
未千子さん:私たちはイベントの時、最初に必ず自己紹介をしてもらうんですけど、その時に本名じゃなくていいですと伝えています。なんでかと言うと、なりたい自分でいて良いというか。
大喜さん:踏み込んでほしくないところを、誰かに踏み込まれたりすることってあると思うんです。そういうのを極力なくしたい。年齢とか住んでいる場所とか、自分のカテゴリーやプライベートのことを共有しなくてもいい。その人がそのまま存在するだけで心地良い場所づくりを意識しています。
-「ありがとうございます。この場がどんな場になっていくと良いなと思いますか?」
大喜さん:長くじんわりとここに存在し続ける場所をつくりたいです。どうしたら長く関わりたいと思ってもらえるだろうかと考えた時に、みんなで一緒につくっていくことが一番かなと。手伝ってもらうのではなく、関わってくれた時点で当事者。能動性の意味合いでも、DIYなどみんなと一緒につくっていく方を選んでいます。

<DIYでつくった解放型の窓>
未千子さん:ここに来る人たちが、 自分自身の解像度を上げる場所になってほしいと思っています。「なんとなく好き」と思っていたけど、具体的にこういう要素があるから好きなんだなとか。そういうことがわかればわかるほど、自分の満たし方やご機嫌の取り方もわかってくる。逆に言えば、生きづらさが減っていくんじゃないかなと思っていて。そのための新しいことに出会える場。ここでいろんな興味や好きなもの、考えが広がることを大事にしたいなと考えています。
大喜さん:他にも、医療職としていろんな患者さんを見てきた中で、ほとんどの方が後悔を残したまま亡くなるんですよね。やればよかったとか。病気のあるなしに関わらず、人間あると思うんですけど幸せの先送りじゃないですか。その時にしたいと思ったことを、しない後悔はずっと残ると思いますし。そういう後悔は極力減らしたい。間近で見てきたからこそ思いますね。
名前も、年齢も、肩書きも、いったん脇に置いて「なりたい自分」でいて良い場をつくること。それは決して特別なルールではなく、2人が欲しかった安心のかたちです。そして、関わった人が当事者としてこの場所を一緒につくっていくこと。それは、他人軸ではなく自分軸で生きるための小さな練習のようでもあります。後悔を減らし、「やってみた」と言える人生を重ねていくための場所。A-BASEは、そんな未来への土壌なのかもしれません。

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鯖江で活動することの意義、帰ってきてから実感するまちの魅力
-「実際鯖江に帰ってきて、A-BASEの活動をここでする意義をどう感じていますか?」
大喜さん:外から戻って来ると、意外と面白い人がいっぱいいるとか。伝統工芸品のすごさも全く分かっていなかったんですけど、活動をする中でいろんな方と出会って、地域に対しての魅力も新しい発見がいっぱいあって。みんな何かやりたいと思っていることが実はあったり。そうした魅力があまり顕在化していないと思うので、逆に言えば掘り甲斐があるのかな。

-「その中でも印象的に残る気づきは何でしたか?」
大喜さん:一番近い話だと母です。ここ(改修した場所)は倉庫ですが、隣に車庫があって、本当はそっち側でやりたかったんですね。ただ僕らがここでこんなことやろうと思うと言うと「こんな所に、人集まらないんじゃない?」と言われて。「とりあえずやってみる!」って、活動したりメディアに取り上げて頂く中で、少しずつ母からイベントの提案をしてくれるようになったり、ある日ふと「車庫の方を使わせてあげればよかったね」と言ってて。多分母の中で「やりたいことを応援してあげよう」という気づきがあったのかなと。誰かをブロックすることと同じように、どこかで自分にブロックをかけている人も多いんだろうなと思いました。でも、それを外そうと思えば、何かのきっかけで外せるなと。
未千子さん:お母さん「使わせてー」って言うことも増えたね。お母さん、ミモザの木育ててたり、今までは友達と家の中でスワッグづくりやっていたり。でも、こういう場所ができるとお友達も呼びやすいかな。
活動を続ける中で加藤さん自身もまた、鯖江というまちの奥行きを再発見していると言います。外から戻ってきたからこそ見える人の面白さや、まだ光の当たっていない魅力。掘れば掘るほど味わいが出てくる土地なのかもしれません。なかでも印象的なのは、お母さんの変化。誰かを止めていたかもしれない無意識のブロックが、挑戦を目の当たりにすることで外れていく。2人の原体験に裏付けされたA-BASEだからこそ、大きな出来事でなくともただ活動し続けることが、人の意識に静かに働きかける。その積み重ねこそ、この場所の意義なのだと感じました。
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「わちゃわちゃなほどいい」2人が描くA-BASEの未来
-「思い描く理想のA-BASEについて教えてください」

大喜さん:僕らがイベントを打ち出すというより、誰かの「やりたいです」がどんどん回っていく感じがいい。誰かの小さな挑戦を誰かが見て「あの人がやっているなら私もやってみたい」これが循環すれば、ブロックがなくなる。やってみたい時に後ろ指刺されることがまずなくなりますし、環境が変われば応援してくれる人ももっと増えると思うので、追い風しかないみたいな状態がいいなって。そもそもチャレンジする人がいないと生まれない価値かなと思うので、そういう人を増やしたいなって。
未千子さん:2人ともリハビリの仕事なので、サポートすることは性に合っていると思っています。自分たちが主役になってイベントする場所にしたいのではなく、 誰かの「やりたい」を、自分たちはサポートする側。ここを使って誰かが輝けるような、そういう場所にしていくことがゆくゆくの理想の形です。

-「本当にいろんな人に来てほしいですね」
大喜さん:そうですね、わちゃわちゃなほどいい。何かやりたい人だけじゃなくて、傍観者もいいと思っています。来ること自体が、その人にとってアクションのひとつだと思うんですよね。何となくもやもやを抱えている人や自分の好きなものがわからない人とか。そういう人も来てくれると嬉しいです。新しい出会いがあって「意外とこういうの好きだったのか」と自分で気づけることが大事だと思うので。何となく来れる場所として、ハードルを下げるための本屋も考えています。
-「本屋の構想について詳しく伺ってもいいですか?」
大喜さん:「きねの書店」というシェア型書店です。本棚がバーっと並んで、一区画ごとに棚主さんが表現したいものを置く。置く人にとっても本を選ぶ段階から「自分って何が好きなんだろう」って自己理解を深めるきっかけになると思いますし、それが売れたら自分と同じような「好き」を誰かが興味持っているかもみたいなワクワク感もあると思います。来る人にとっても、誰かの自己表現に触れられる場所。自分だったら見ない本屋さんのコーナーみたいに全然興味なくても、それを好きな人がこの世界にいるんだなという視点を得たり。棚主さん同士に関しては、本好き同士としても楽しいだろうなと思っています。
現在、加藤さんご夫妻はきねの書店オープンのためにクラウドファンディングに挑戦中(2026年3月31日まで)。他にも、もうひとつの倉庫を改修して、シェアキッチンや習い事スペースなどをつくりたいと意気込みます。
-「最後に記事を読んでいる方へのメッセージをお願いします」

大喜さん:僕がA-BASEでやりたいと思っていることを集約すると「やらないことの言い訳をなくす」なのかなと思っていて。ここへ来た人が、その人自身もやる人になって、応援する人になって。これがぐるぐる回るために、次の人がつなぐ気持ちも大事だと思います。そういった気持ちで関わってもらえたら嬉しいです。
未千子さん:もっと気軽に来てほしいなって思います。インスタグラムで開催するイベントや「きねの書店」のDIYとかも発信しているので。友達の家に行く感覚でいろんな方に来てほしいです!
挑戦する人も、まだ迷っている人も、ただ足を運んだ人も、その瞬間からこの場所の当事者になる。A-BASEは、やらない理由を探すのではなく、やってみる理由を見つけられるチャレンジショップのような場所です。誰かの「やってみたい」が、また次の誰かの一歩を生む。そんな小さな一歩の積み重ねが、やがてまちの空気を変えていくのかもしれません。誰かが用意する未来ではなく、自分たちでつくる未来へ。A-BASEは今日も、鯖江で誰かの「やってみたい」を応援し続けています。
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クラウドファンディング挑戦中です!
A-BASE(エーベース)の中に、シェア型本屋『きねの書店』を作るプロジェクトが進行しています。クラウドファンディングを通じて、多くの人々に加藤ご夫妻さんの取り組みを知っていただき、鯖江から始まる「挑戦の輪」に、加わっていただければ幸いです。ぜひ、応援よろしくお願いいたします!


<支援・詳細はこちらから!> https://for-good.net/project/1002985
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A-BASE(エーベース)
福井県鯖江市大倉町16-14
Instagram: @abase_fukui