去年から新しく生まれた、つくるを祝う祭典「さばえまつり」。密着取材と題して、実行委員会のみなさんや参加者のリアルな様子をお届けします!
前回(中編)は、さばえまつり開催の約1ヶ月前に行われた予祝の仮面づくりの様子をお伝えしました。鯖江周辺の廃材を活用しながら、子どもから大人まで自分だけのオリジナル仮面づくりに没頭。出来上がった仮面をつけて町を練り歩き、まつりに向けて西山公園で盆踊りの練習もしました!(中編は、こちらから)
今回は、ついに迎えたさばえまつり当日の様子をお届けします!(さばえまつりは9月27、28日の2日間開催ですが、この記事では28日の様子を取り上げています)

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さばえまつりに潜入!3つのまちの出現はいかに?
取材班がお昼過ぎに到着した頃には、既にたくさんの人で賑わっていました。ずらっと立ち並ぶ飲食店ブース、手づくりのやぐら、縦横無尽に走り回る子どもたち、椅子に座ってリラックスしている人々、なにやら急に始まった太鼓パフォーマンス。同じ西山公園内で、あらゆることが同時進行で起きている姿は、とっても自由!まだ何もしていないのに、会場に着いただけでワクワクします。


開催2年目となる今年の特色は、なんといっても3つのまちの出現!「未来の理想の鯖江とは?」を問い、村・町・港の3つのまちをアーティストと市民でつくりあげる新たな試みに挑みました。(詳しくは前編を参照)それぞれのまちは、どんな形で現れたのでしょうか?
まずは、土着の信仰が息づく「イッココ村」。目を引くのは、存在感のある山車!

生き生きとした絵が描かれた巨大紙芝居と共に、語り手が物語りをしています。その名も「幻燈音楽座」。音楽家・美術家の武徹太郎さんと市民が共に、鯖江の民話をもとに音楽と映像を制作し、幻燈音楽座のメンバーによるパフォーマンスで鯖江に受け継がれた小さな物語を描き直します。中学生や移住者、ラッパーにデザイナーなど、鯖江に住む多様な人々が参加。語りや紙芝居が織り成す独特な世界観に、多くの人を魅了するイッココ村です!
続いて、多彩な表現が溢れる「マッココ町」。おや?城のような、秘密基地のようなどでかい何かが建ってます。近くには塔のようなものも!?


産業廃棄物などで空間をつくる建築ユニット「デッドストック工務店」と市民が共につくり上げたのは、廃材を活用した巨大モニュメント!新たな着眼点で廃材を捉え、工夫を凝らした創作物は、まさに「つくるを祝う」さばえまつりならでは。
最後に、交易と交流で賑わう「スココン港」。会場で、風になびく大きな帆を発見しました。きっとここがスココン港だな!

スココン港ではアーティストの田中紗樹さんと市民が協働して鯖江を行き交う人やモノを探り、みんなで語り合いながらそれらを大きなアート作品に昇華。帆の隣には、鯖江の町にある色を抽出した「さばえの100色」の展示も。未知の人やモノが行き交う港らしい賑やかな色使いが、会場を彩ります。

まちのつくり手たちがつくりあげたどでかい村・町・港には、それぞれの誇りが確かな形となって現れていました。
それだけではありません。企画数は80、来場者数は約7,000人と、数的にも去年より確実にどでかくなっています!(去年の企画数は62、来場者数は約4,200人)
そんなさばえまつりが賑わう中、さばえまつり発起人、アーティスト、参加者などに突撃インタビューしてきました!さばえまつりに関わるひとりひとりのリアルな声から、さばえまつりとは一体何なのか?を探ってみましょう。

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さばえまつりの発起人・森一貴さんが考える「僕らの仕事」
幸運にも最初に出会えたのは、さばえまつりの発起人・森一貴さん。早速今年の印象を伺うと「いや〜なんかね〜、すごくでかくなりましたね」の一言。3つのまちをつくったことで、「まつり」に加えて「廃材」や「民話」など様々なキーワードが加わり、関わる人の範囲が一気に広がったそうです。関わる人の範囲が広がると、これまで出会わなかったような人たちが、出会っていくきっかけを生むことにもなります。森さんは「僕らの仕事は、さばえまつりがなかったらあり得なかった出会いをどれだけつくれるかだから」と語ります。

「鯖江ってたくさんイベントあるけど、どうしてもよく会う人たちになっちゃう。その中でもさばえまつりは、全然知らない人が入ってきて、いつの間にか主役になっているという状態をどうつくれるかが僕らのテーマだなと。人が繋がるとか、まだ巻き込まれていない人が一歩目を踏み出すプロセスをつくる」
森さん自身も去年より知らない人の顔がたくさんあると言います。来年に向けての抱負は「いろんな人の力を、上手に借りる」こと。実行委員会だけではなく、鯖江に生きるひとりひとりの得意を生かしながら、いろんな人と連携していくことで、関わりをさらに広げていきたいと意気込みます。さばえまつりをきっかけとして、普段から手を取り合える人を増やし、関係性を深めていくー。まつり当日の西山公園に広がっている光景は、まさにそんな光景ではないでしょうか。
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スココン港を濃厚取材!高校生、団長、アーティスト、それぞれの実感とは?
続いて、インタビューに協力してくれたのは出店者として参加していた鯖江高校の生徒。学校の探求学習の一環としてさばえまつりに参加。スココン港のつくり手となり、当日はかざぐるまづくりのワークショップで出店していました!「ぶっちゃけさばえまつりどうですか?」の直球質問に対して返ってきたのは「めっちゃ楽しい!」のひとこと。どんなことが楽しかったのか、詳しく聞いてみました。

「でっかい帆を作った時とか。あっちにあるさばえの100色は、鯖江のまちの写真を撮るところからやっているんですけど、その時の撮影や、自分たちで色を調合をしたのも楽しかったです」
「さばえまつりを通じて人との関わりが増えたかな。これに参加しないと関われない人たちだったと思います。いろんな人と作業したのも楽しかったです」

森さんの願いが、高校生たちの実体験に結実していることを目の当たりにして、必死に涙を堪えました。ちなみにかざぐるまの紙は、さばえの100色をつくった際に余ったインクを大きな模造紙に描いて切り取ったもの。鯖江らしいSDGsの要素が盛り込まれていました。
かざぐるまづくりに興味をもった子どもたちが引っきりなしに訪れる人気ブースとなっていました!


ちょうどそこへスココン港の団長が通りかかりました。会うなり、高校生たちの顔がほころんで、きらきらの笑顔が現れました。その一瞬が、団長と高校生たちの関係性を物語っているようです。団長は「高校生たちがよく頑張ってくれた」と語ります。

「授業の一環なので、授業だけで終わらせればいいものを、土日や平日、夏休み期間にも来てくれました。『面白い』って言いながらやってくれて」
高校生たちは、「さばえまつりに参加しないと関われない人たち」と共に創作活動に取り組み、ブース出店をしてさばえまつりを担っていました。来年は受験が控えているそうですが「遊びに来たいな」と笑みをこぼします。
ぜひ帆の前で写真を撮りましょう!と、移動していると、なんとスココン港のアーティスト・田中紗樹さんが!一緒に「はいっチーズ!」

田中さんにとっても、さばえまつりは普段関わりのない人たちと関わる機会だったと言います。特に高校生との協働は新鮮だったとのこと。田中さんは景色をぐるっと見渡して、こう語ります。「ここでは、子どもが居れる場所もあるし、あらゆることがごちゃまぜになってて『いろんな人たちが来ても大丈夫』と感じますね。同じ広場で、いろんな箇所で、いろんなことが同時進行で起こってる。さばえまつりのテーマは、「つくるを祝う」なので、ここにいるみんなでつくる輪をつなげていけたらいいなと思っています」

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来場者にもインタビュー!三者三様の立場から浮かび上がるさばえまつりの実感
続いて、さばえまつりに遊びに来ていたこちらのお三方。そのうちの一人は、さばえまつり目的で、神奈川県から来たとのこと!早速お話を伺ってみましょう。

「さばえまつりは去年から知っていて、今年は鯖江の友達に「ぜひ来て!」とすすめられて来ました。参加型の出し物や出店が多くて、一体感がありますね。自分も一員になれている感じがめっちゃ楽しい!あと、参加者が置いてけぼりになってない。それは、すごく大事なことだと思います。どこに居ても自分の存在が許されている、この空間」
はるばる神奈川から来ても、違和感なくこの場に居れるー。田中さんの「あらゆることがごちゃまぜになってて『いろんな人たちが来ても大丈夫』と感じます」の言葉に続き、さばえまつりの場にいるひとりひとりの「ここに居て良い」という大切な実感が浮かび上がってきました。

続いて現在東京にお住まいの鯖江市出身の方の声も伺いました。
「フェスっぽくて楽しい。ここには、鯖江の人もめっちゃいますね。地元が鯖江なので、嬉しいです」

「いろんな人が参加している感じが良いですね。あそこの屏風の絵ひとつも、ローラーですればいいものを、一個ずつ絵を描いて、それを貼り付けて。ここに来るまでの過程で、みんなでつくった感じが伝わってきます。計画されたものが最後に完成するんじゃなくて、いろんなことがあって、いまここに見えている感じがすごく良いなって」
遊びに来た人たちも、さばえまつりの一員となっている実感と共に、この場を楽しみ尽くしている様子が伝わってきました。
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「常軌を逸したプロジェクト」武さんが振り返る今年のさばえまつり
最後にインタビューしたのは、イッココ村アーティストの武徹太郎さん。今回の制作秘話について語ってくれました。

最初のパフォーマンス構想から二転三転し、「幻燈音楽座」(民話をもとに制作した映像をプロジェクターで投影しながら、語り部が鯖江の民話を語る)に定まったそう。幻燈音楽座の着想は、なんと鯖江の田んぼ。「河和田の田んぼがすごいじゃないですか。 車で走っている時に、 あの田んぼの真ん中に巨大な絵が立って、そこで語るパフォーマンスが出来たら最高だなと思い浮かんで。人の信仰心や物語って無形のものだから、語り終わったら空中に消えてしまうようなものがいいと思って、夜空を切り取ったような形で、映像を投影したいと思ったんです」

語りと音楽、映像が織り成す幻燈音楽座は、通りがかった人たちが思わず立ち止まって引き込まれていくような魅力があります。そんな幻燈音楽座の昼間上演は、映像ではなくこちらの山車を使った巨大紙芝居で行われていました。言葉を発さずともひしひしと伝わる貫禄・・・。なんと139歳の「おじいちゃん(愛称)」山車です。

「着物屋の店主さんが、昔使われていた山車をあげるよって連絡をくれて。すごいことですよね。バラバラの状態だったので、雨の中10人くらいで組み立てました。組み立て終わった瞬間に、自分とあの山車が繋がったような感覚になって。今年は去年よりも稽古が多かったですけど、体調を崩さなかったのはおじいちゃんのおかげなのかなと」
倉庫で眠っていた139歳の山車が、さばえまつりで息を吹き返す。鯖江の地に、去年生まれたばかりのさばえまつりがじわじわと広がっていることを象徴しているようなエピソードです。たくさんの人が巨大紙芝居の絵を連日描きに来たり、突然山車をもらったり。武さんは「やっぱり常軌を逸したプロジェクトでしたね」と、総括の言葉を残します。
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2年目のさばえまつり閉幕、イッココ、マッココ、スココンノコーン!
こうして取材班がインタビューを終えた頃、さばえまつりはいよいよフィナーレにさしかかりました。最終日の大トリは、山中カメラさんによる盆踊り大会!地域の文化や歴史、暮らしの空気を手がかりとしながら新しい現代音頭を生み出す山中カメラさんが、さばえまつりの新しい盆踊りをつくり、会場にいるみんなで輪になって踊ります。


この時の歌詞は、なんと鯖江に生きるひとりひとりの声。「これからの鯖江に残したいもの・大切にしたいもの」をテーマに集まった願いが読み上げられ、未来に響く歌となっていました。会場には、自分の声が歌われて照れている顔や、はたまた見知らぬ誰かの願いに胸を打たれてしんみりする姿が。さばえまつりは、いまの鯖江に生きるひとりひとりの願いと共に、収束に向かっていきます。
そして最後は、みんなで「あの」掛け声を叫んで締めます。
「来年もまた会いましょう!イッココ、マッココ、スココンノコーン!」

インタビューを通して、さばえまつりをきっかけに普段関わりのない人たちが出会い、そしてその出会いが次の何かに繋がっていくことの萌芽を感じることができました。お客さんとして来た人も、会場をつくる何かに巻き込まれるー。
鯖江の人も、県外の人も、さらには国を超えて集い、踊り、掛け声を叫ぶ。まさに「つくるを祝う」光景が、広がっていました。こうして、さばえまつりをきっかけに生まれた萌芽は、これからも鯖江で咲き続けます。