今回は、「つくる、さばえ」のものづくりの取組みのひとつである、越前鯖江デザイン経営スクールが主催する「デザイン経営フェス」を密着取材!そもそも越前鯖江デザイン経営スクールとは?という基本情報から、当日の様子や参加者インタビューまでみっちりお届けします!
1.越前鯖江デザイン経営スクールとは?
01.デザイン経営シンポジウム(デザイン経営を学ぶ)
デザイン経営に精通するトッププレイヤーによる基調講演と、デザイン経営を実践する産地企業によるパネルディスカッションを通し、産地の未来像を探る。
02.これからの価値づくりセミナー
デザインの構想力により社会の中の大きなシステムを持続させる可能性を学ぶ。
03.越前鯖江クリエイティブキャンプ
越前鯖江の企業と参加者を結びつけ、これからの時代にあった商品やサービスを協働開発する実践型スクール。
04.デザイン経営フェス
越前鯖江クリエイティブキャンプ成果物発表に加え、デザイン経営を実践する市内外の企業や自治体の事例を学ぶ展示会。
つまり今回お伝えするのは、デザイン経営フェスは4つ目にあたる集大成というわけです!

<越前鯖江デザイン経営スクールの詳細はこちらから>
HP : https://echizensabae-design.com/
Instagram : @echizensabae_designmanagement
note : https://note.com/esds_2023/all
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2.今年は3年目!越前鯖江デザイン経営スクールの歩み、3年間の歩み
今年(2025年度)は3年目となりますが、これまでの歩みを数字で可視化してみましょう!

なんと越前鯖江デザイン経営スクールを通して、3名の移住者、713名の参加者がいるとのこと!「継続しているプロジェクト数11」について少し説明させてください。前記した越前鯖江クリエイティブキャンプでは、毎年4企業が参加し合計12チームが誕生。その中で、11チームがスクール終了後も継続してプロジェクトを行っている、ということです!取り組みの意欲が内発的に発生しているというすごさ。どうやら、これはただのスクールじゃないようです…!
1、2年目とのちがいは?
3年目は、これまでと比べて大きなちがいが2つあります。1つ目は越前鯖江クリエイティブキャンプを短期集中の二泊三日で行ったこと。1、2年目では、半年にわたる月1開催でしたが、それをぎゅっと凝縮した形に変更。2つ目は、デザイン経営フェスを行ったこと。これまでは越前鯖江クリエイティブキャンプで終了していましたが、今年は3年間の越前鯖江クリエイティブキャンプ成果発表や、デザイン経営を取り入れるトップランナー企業の環境大善によるスペシャルトークなど豪華な集大成が用意されました。では、早速当日の詳しいレポートへGO!

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3.スペシャルトーク「環境大善による、私たちのデザイン経営」

今回の目玉企画であるスペシャルトークは、あの「きえ〜る」(牛の尿を原材料とする、環境にも人にも優しい天然消臭液)で有名な環境大善株式会社の代表取締役・窪之内誠さんとアートディレクター・鎌田順也さんによる、環境大善のデザイン経営についてお話頂きました。前半は窪之内さんが経営目線でトーク。窪之内さんがお父さんから事業継承したストーリーから、鎌田さんを迎えるまでについてお話を伺いました。後半は鎌田さんからデザイナー目線でどのように提案を行ったのかについて伺う合計1時間半のボリューム満点の内容でした。

代表取締役・窪之内誠さん(左)、アートディレクター・鎌田順也さん(右)
事業継承後に窪之内さんが最初にぶつかった壁は、デザイン。パッケージやブランディングなどをもっと良くしていくために、アートディレクター探しを始めて、出会ったのが鎌田さんでした。しかし初手、鎌田さんから予想外のひとこと「3年かかります」。「え!すぐパッケージつくって終わりじゃないの!?」と思いますよね。鎌田さんは「デザインをする前に、何をデザインするか考える」ことが重要だと考え、3年かけることを提案。最初の1年は窪之内さんが「頭の中を引きずり出された」と言うほど、鎌田さんとやりとりをしながら理念の再構築やインナーブランディングに徹底的に取り組んだそう。鎌田さんの「理念をつくるのは、最大のデザイン」という言葉が印象的です。他にもインナーブランディング後に着手すべきことや、ロゴの誕生秘話、お店づくりのポイントなど、メモが止まらない重要な話が続きます。デザイン経営のヒントがたっぷり詰まっている環境大善の実践、今後も要チェックです!
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4.ギャラリートーク「デザイン経営スクールの歩み」
越前鯖江クリエイティブキャンプの成果発表展示場に移動して、参加チームから成果発表がありました。12チーム中11チームがプロジェクト継続中という熱量がほとばしる現場で、今年度参加チームと過去参加チームがトーク。ここでは、今年度(2025年)の参加チームである、あたかやと谷口眼鏡の発表をピップアップしてお伝えします。

【あたかや】漆器の新ブランド「赤黒」、季節行事の祈りを現代の暮らしの中へ
あたかやは、越前漆器の産地・河和田地区にて企画・製造・販売を手がけるメーカー。自社ブランド「atakaya」として、現代の暮らしに馴染むモダンな漆器や贈答品も幅広く提案しています。そんなあたかやチームがキャンプを通じてつくったのが新ブランド「AKAKURO」。漆器の基本色である赤と黒に着目し、創業当初から受け継がれてきた理念である温故知新に立ち返ることで、漆器の伝統や多様な職人と向き合い続けてたあたかやのものづくりを再解釈したそうです。そこから導き出したのが、季節行事に込められてきた祈りを現代の暮らしの中にそっと置ける形へと再構成する商品。例えば、こちらの雛人形は、下塗り3回、本塗り1回の丁寧な工程を経て、さりげなくも存在感のあるプロダクトに仕上がりました。今後はクラウドファンディングなどで広く継続的に届けることができる方法の確立に取り組みたいと意気込みます。
あたかやHP



【谷口眼鏡】使い手が伝え手になるツアーを構想
谷口眼鏡は、1957年に河和田で創業。掛け心地と修理性にこだわる眼鏡を職人が丁寧に製造し、自社ブランド「TURNING」も展開するメーカーです。谷口眼鏡チームは、鯖江のものづくりの魅力を伝える新ブランドづくりに向けて、工場見学を軸にしたファクトリーツアーを考案しました。中国での大量生産・低価格化が進むなか、鯖江の職人の手仕事や細かな設計の価値を直接体感してもらうことを目的に、部品製造や組み立て工程を巡り、職人とコミュニケーションがとれる内容を提案。単に眼鏡を売るのではなく、「使い手が伝え手になる」体験を通じて産地のファンを育てる狙いもあります。クリエイティブキャンプ終了後も、実際に旅行会社と手を組みながらツアーづくりが現在進行形とのことでした。今後の動きにも乞うご期待です!
谷口眼鏡HP



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5.パネルディスカッション「会社、産地、その後どう変わった?」
ギャラリートークが終わった後は、パネルディスカッションへ。1年目参加の沢正眼鏡株式会社代表取締役・澤田渉平さん、同じく1年目参加の株式会社越前セラミカ代表取締役・石山享史さん、TSUGI LLC. 代表/一般社団法人SOE副理事・新山直広さんの3者で、越前鯖江デザイン経営スクールを終えた後の変化についてトークが行われました。それぞれ経営者として孤独に悩みを抱える中で、越前鯖江デザイン経営スクールを通した新たな出会いやアイディアが、良い風となったことなどが語られました。居酒屋で「社長!」と言ったら全員が振り返るような企業家精神旺盛なこの地で、事業者とよそ者や若者が混ざり合って事業に向き合うことは、とても大きなパワーになり得るのかもしれません。

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6.参加企業インタビュー
「やっぱり実際に参加した方の声を聞かなくては!」盛りだくさんのタイムテーブルの隙間を縫って、あたかやチームに取材のご協力をいただきました。あたかやチームは、あたかや2名、リードデザイナー1名、参加者4名で構成された合計7名のチーム。越前鯖江クリエイティブキャンプの感想を、あたかやと参加者に伺いました。

きっかけは姪の一言、3日間の集中対話でみつけたあたかやの進む方向
あたかや代表の安宅勇二さんが、越前鯖江クリエイティブキャンプに参加したきっかけは「姪のおすすめ」。その姪である安宅理彩さんにお話を伺いました。

理彩さん:1年目にインスタで(スクールを)見つけて、初めて知りました。興味があったので発表会を聞きに行って、デザイン経営という言葉が地元にあるなんて面白いなと思いました。2年目も発表を聞きに行ったんですが、その時新山さんとお話する機会があって「来年出なよ」と背中を押してもらって。
勇二さん:僕も新山さんと知り合いで。漆器業界が厳しくなってきている中で、声をかけてもらって「じゃあ参加するわ」と。タイミングが良かったです。
実際に参加した越前鯖江クリエイティブキャンプは、短期集中だからこそ良かったと語ります。
勇二さん:初日は、僕が「何をかっこいいと思うか」みたいなパーソナルな部分から始まって。漆器のことを知らない参加者もいたので、漆器や業界のことを説明したり。3日間でぎゅっとかためてぽんっと出してる。それが良かったのかな。これまでは時間かけてやっていたんですよね?うちも普段は少ない人数で仕事をやっているので、その中からさらに時間を削られるっていうのはきつくて。ただ3日間であれば、スケジュール調整もできます。自分も普段の仕事からある意味解放されて、吹っ切れて参加できたのは良かったですね。

なんと3年目の特色が、実際に参加した企業さんからの声が良かったと受け止められているのはとても重要!キャンプを通して現在は、どのような今後を描いているのでしょうか。
理彩さん:本当に参加して良かったと思っています。それまで私もあたかやのことをやりたいと思っていて「理念こうなんじゃないか?こういう見せ方がいいんじゃないか?」と少しずつやっていたんですが「合っているかわからないな、しっくりこないな」と悩んでいました。でもチームメンバーとして一緒に話してくれる人がいたおかげで、自分も納得できるものがつくれたかなと思っていて。課題はありつつも「こういう風に自分たちは進めていけるんだ」という基礎の部分ができたので、もっと続けていきたいと思いました。
勇二さん:今思っているのは、クラウドファンディングの実施。ホームページやイベントを展開していきたいと思っています。今回の「AKAKURO」は、季節商品なんですよね。昔の漆器の注文は、年間通して季節商品があったので、職人さんも年間スケジュールを立てられた。そういうのがどんどんなくなってきてて、今は入った注文をこなしていく。そうすると追われるんですよね。職人さんも先が見えない。そこで、季節商品だったら予定も組めるし安定できる。そこも大きなメリットかな。今後はアイテム数をもう少し増やすのと、単価を少し下げて手に取りやすい値段設定を展開したいですね。
参加前に理彩さんが抱えていた「しっくりこない」という悩みが、キャンプを通じて「こういう風に自分たちは進めていけるんだという基礎の部分ができた」という自信になった変化は、まさしくデザイン経営スクールならではの強み。お二人の直接の言葉から、越前鯖江デザイン経営スクールの意義が深く濃いものであったことが伝わってきました。
続いて、参加者の田谷さん(プロダクトデザイナー)、井上さん(リサーチャー)、曽根さん(デザイナー)にインタビュー!早速参加のきっかけについて伺いました。
田谷さん:私は神奈川出身で、いま石川で広報の仕事をしています。産地の手引き*1で、このスクールを知って参加しました。

井上さん:福井県出身です。友達のおすすめで、このスクールを知りました。いま転職を考えていることもあって、いろいろ知ろうと思って参加しました。

曽根さん:神奈川出身です。移住していまは鯖江に住んでいます。産地の暮らしごと*2でSOEでインターンをしていて、その時にスクールの最終発表の設営を手伝ったことがあって、その時から気になっていました。

三者三様の理由!このスクールの運営をしているTSUGIやSOEが手がけてきた、様々な機会が有機的につながっていることも見えてきますね。参加してみての感想や、あたかやとのこれからについても伺いました。

田谷さん:もともと大学でプロダクトデザインを学んでいたのですが、大学の課題はインターネットで調べて現状を想像して制作することもあり、もどかしさを感じていました。だからこそ、。今回実際につくられている現地で、職人さんや産地の現状などを直接聞いた上で、いろんなことをみんなと考えることがすごく勉強になりました。3日間は結構大変でした。だからこそ逆に緊張しすぎず、遠慮しすぎず。必死に聞き出すみたいな空気感もあって、そこは短期間の良さかなと。今後は、つくったものの良さをどうしたら共感してもらえるかというところで、ちゃんと伝えていきたいです。他にもどういう取り組みをした方がいいのかについては、やっぱりみんなで相談しながらやっていけたらいいなと。

井上さん:私はデザインができないので、自分に何ができるか考えました。みんなのサポートみたいな。でもやっぱりものづくりは好きだなと思いましたし、こんな素敵なものをつくることに携われてすごく良かったなと思っています。結構大変だったことはすごく同意で、知識量がすごく多いし、意見をまとめるのも大変。3日間、夜までみんなで考えるみたいな。なかなかできない経験だったと思います。
曽根さん:鯖江に住んで2年になりますが、なかなか職人さんとがっつり交流するということはなかったりして。今回、漆のことをどっぷり知ることができたなと。移住した理由である「ものづくりに関わりたい」ということが、叶ったような気がしています。大変だった原因の一因は、多分私にあると思うんで…私が「でもこれはここと矛盾してないか?」って、どうしても解決しなきゃ一本筋通ってない気がしたり…私は思考スピードがすごく遅いので大変だったというか。やっぱりなかなかできないスパルタな経験だったなと思います。良いトレーニングをしたという感覚です。

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産地という現場で考える重要性や、ものづくりに関わりたい気持ちの成就。参加者の声を通じて、越前鯖江デザイン経営スクールがデザイン経営を学ぶだけに留まらず、ひとりひとりの糧になるような機会だったことが伝わってきました。
そして今回、スクールに参加したチームの方々に直接お会いして、どのチームも家族のような雰囲気があったことが印象に残っています。先生と生徒でもなく。インターンと受け入れ企業でもなく。お互いがお互いの成長を願うような、そんな温かな絆が見えてくるかのようでした。
このプロジェクトの醍醐味は、なんといっても実際に産地に学び、産地を考え、産地でデザイン経営に取り組んでいくこと。デザイン経営は、つくり手やものづくりに関心のある人が直接出会うことが大前提にあるような気がしました。12チーム中11チームが現在進行形でプロジェクトを進めています。これからの動きに乞うご期待です!
特に今回ピックアップした「あたかや」と「谷口眼鏡」はどちらも鯖江の企業。この記事を読んでくれた皆さんが、鯖江のものづくりの未来を体験することができる、そんな鯖江にぜひ直接訪れてみてください。