つくり手インタビュー:miraimigaki 奥村広則さん

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はじまりは「海ゴミをどうにかしたい」の思いから。
「アイディア次第でゴミも価値のある資源になる」廃材を活用したプロ級ゲームのつくり手・奥村広則さん

鯖江市でさまざまな活動を行って盛り上げている人たちの動きを、もっともっとたくさんの人に発信するべく、活動の当事者たちに密着し、レポートをまとめる『つくる、さばえ研究課』。

今回は「ことづくり」に焦点を当て、廃材を活用したゲームづくりに精力を注ぐmiraimigakiの奥村広則さんにインタビューのご協力いただきました。

奥村さんは、廃材やリサイクル品を活用しながら、海ゴミ問題について伝えるゲームを制作しています。例えば、こちらは、アルミの端材や壊れて使えなくなった釣りのリールなどを使って制作した「サステナクレーンゲーム」!

続いてこちらは、捨てられていたペットボトルを活用したぺっ琴(きん)ゲーム「umigomi0」。音の鳴るペットボトルを叩いて海ゴミの敵を倒すゲームで、ライターと市役所職員が必死にプレイ中です。

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きっかけは海ゴミ、ストイックなゴミ拾いで経験した「失敗」

鯖江市出身の奥村さんは、現在眼鏡の加工会社に勤めながらゲームづくりをしています。

経歴は、本人曰く「めちゃくちゃ」。福井高専を卒業後、介護職→医療関係の会社員→鯖江精機社員を経て現職に至ります。そんな奥村さんが廃材やゴミに関心を持つきっかけは何だったのでしょうか?

奥村 : 「もともと海が好きで、子どもの時によく海で遊んで楽しかったんですね。大人になって子どもを海に連れて行くと、そこら中にゴミがあるんです。危ないし、すごい臭い。せっかく海に遊びに来たのに残念な感じで帰ることがあって、何かできないかなって」

<日野川のゴミ拾いをする奥村さん>

海ゴミの現状を突きつけられた奥村さんは、自分にできることがしたいとゴミ拾いを始めます。家の前のゴミを拾ったり、川と海が繋がっていることから鯖江の日野川周辺に出向いたり。それも、たまにではなく、毎日。はじめはSNSのいいね欲しさに続けていたというゴミ拾いですが、やっていくうちに思いが強くなっていきました。

奥村 :「朝5時に起きて、2時間ゴミを拾って、仕事行って。もし仕事が早く終われば、また日野川の様子を見たり。夜はゴミ拾い活動の方がやっているイベントに行ったり。むちゃくちゃでしたね。やっているうちにだんだん問題の大きさを知って、本当にシリアスになってきちゃって」

ストイックかつシリアスにゴミ問題に取り組む奥村さんですが「失敗したんです」と、当時のことを振り返ります。

奥村:「多くの人に問題を知ってもらわないと現状を変えられないので、いろんな人にゴミのことを言うんですけど、あまりに僕が必死すぎて、ちょっと失敗したんですよ。ゴミ拾いをすることで世間に現状を伝えたくて、かなり考えていろんな人に喋るんですけど、なかなか反応をもらえなかったです」

ストイックかつシリアスに取り組んでも、周りの人たちになかなか問題が伝わらないー。自分と周囲のギャップを感じてもやもやが募り、毎日続けていたゴミ拾いも次第に足が向かなくなったと言います。そんな奥村さんが次にたどり着いたのは、アップサイクルでした。

奥村:「ゴミ拾いを長年続けている人は本当にすごいです。でも、自分には限界があった。次どうしようかなって世間を見渡した時に、アップサイクルに取り組む方が活躍されているなと。拾ったゴミが何かにならないかなっていうのは、ずっと思っていたので、僕もやりたいなと思いました」

そんな思いを抱いた奥村さんが向かったのは、福井市にあるトンカンテラス1でした。

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鯖江精機で培った技術を生かす、プロ級のゲームづくりで得た自信

その時代表の黒田さんが見せてくれたものが、なんと現在の「ぺっ琴(きん)ゲーム umigomi0」に使われている「ペッ琴」(ペットボトル×木琴)でした。「ペッ琴だけだと何かが物足りない」そんな黒田さんの悩みを聞いて、奥村さんはゲームを考案。ここで生きてくるのが、前職の鯖江精機で培ったものづくりの腕でした。

奥村 : 「鯖江精機で図面の読み方やCADとかの使い方も覚えました。まず、お客さんの『こういう製品を作りたい』に対して、完全にゼロから頭の中に描いてパソコンの中で形にする。それから実際に部品を集めて作って、やっぱりうまくいかずに改善したりして、やっとお客さんが納得する形に持っていく。本当に大変だったんですけど、先輩に助けてもらいながらいろんなことを吸収しました」

鯖江精機で培った機械のものづくりを生かして、ペッ琴を活用した海ゴミのゲームを生みだしました。そして黒田さんの声かけで、サンドームのおもしろフェスタ2で初めてゲームをお披露目することに。この時の経験が、奥村さんにとって大事な成功体験となりました。

<奥村さんの出店先でゲームを楽しむ子どもたち>

奥村 : 「結構見てくれる人がいて、初めてウケたんですね。ゴミがこうなってるよっていうのを、 いろんな人に伝えたいという僕の気持ちが、 初めていろんな人に届けられたんじゃないかと。やりたいことが、何か形になったのかもと思いましたね」

初回の出店に引き続き、運良く2度目の出店機会をゲット。奥村さんは改良を重ねて、ペットボトルを叩いて海を汚す大魔王を倒すことができるシューティングゲームを新たに制作しました。

奥村 : 「それが、お客さんがぶわーっと来てめちゃくちゃウケて。すごくやりがいを感じて、これなら何かできるかもしれないって思いました。じゃあ今度はもう自分で出店しようと決めたんですね」

廃材を活用した自作ゲームだったら、自分が伝えたいことを伝えられるかもしれないー。この時の出店経験が自信となり、奥村さんは2024年10月、初めて「miraimigaki」の屋号で大野市の七間朝市に出店。期待を膨らませていた奥村さんでしたが、待っていたのは残念な結果でした。

奥村 :「ウケなかったんです。初めてmiraimigakiって名前で出店して、みんな謎ですよね。その時の売り上げが100円やったんですよ。奥さんに言えない、やばいと思って。その後にも勢いでイベント出店を入れちゃっていたので、そこから焦り出しました。自分が伝えたいこともやっぱり伝えられないし」

焦った奥村さんが考えたのは、通りすがる人たちが「あっ!」と驚くような見た目に訴えるゲーム。この時つくったのが、クレーンゲームでした。不要になったアルミフレームや、倉庫の奥にしまわれていたリールなど多くの廃材が活用されています。これが大ウケして、今では県内外の出店で忙しくされています。

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「廃材でめちゃくちゃ面白いものをつくりたい」、奥村さんのつくるエネルギー

鯖江精機で培った技術を生かした奥村さんならではのゲームづくり。「ここまでつくるなら、やっぱりウケたい」その一心でイベントに出店し、お客さんの反応を見ながら、作り直すことを惜しみません。奥村さんを突き動かす「つくる」エネルギーは、一体どこから沸いてくるのでしょうか。

奥村 :「廃材でめちゃくちゃ面白いものを作りたくて。SDGsが真面目で硬いという印象を持っている方が多い印象なので、そのイメージを払拭したくて。廃材なのに楽しいみたいなところを目指しているというか。miraimigakiは、エンジョイサステナブルを掲げているのですが、僕自身に言い聞かせてるんです。やっぱりいろんな人に届けるためには、楽しくやっていくことが必要なんじゃないかなと思って」

ストイックでシリアスにゴミ拾いをやっていくだけでは、伝わることに限界があると知った奥村さんだからこそ、面白く伝えたいという強い思い。奥村さんは「ちょっとちがうシステム」をつくることにこだわっていると言います。

奥村 :「ゼロからものを組み立てられる、仕組みを作れるっていうのは僕の強みだと思うので、あまり無いシステムを作ってやってます。このペットボトルのゲームも、普通だったらボタンを押して、その入力信号でシステムを作ると思うんですけど、マイクで音を拾う音声入力にしています。ハンドルも、角度をカメラで判別できるんですよ」

<カメラが白丸に書かれた黒い棒線を認識して、ハンドルの傾きを判別。ハンドルには眼鏡の端材が活用されている>

そんな奥村さんがゲームを通して伝えたいことは、環境問題のことだけにとどまらないと言います。

奥村 :「アイディア次第で、捨てられるものも、価値のある資源に生まれ変わるんだっていうものづくりの楽しさを伝えたいですね。お子さんにも僕のゲームで新しい発見があって、すごく嬉しいと感じてほしいなって思います。例えばクレーンゲームも、空気の力を使ってキャッチしてるんですよ。空気の力でこんなことできるんだ!っていう新しい発見や気づき。そういう新しいものを見ている時のお客さんの反応は、僕も見てていいなって思います」

<しげしげと見つめてしまうクレーンゲームの配線>

海ゴミ問題のことも伝えながら、ものづくりの楽しさも感じてほしいー。奥村さんのゲームは「SDGsの入り口をつくる」役割を果たしています。

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SDGsはアイディアが大事、ゲームのつくり手が増える未来へ

最後に奥村さんは、ゲームのつくり手が増えていく未来について語ってくれました

奥村 :「やっぱりSDGsってアイディアがすごく大事だと思うんですよね。自分自身がいろいろなイベントへの出店でいろんな工夫や形を見させてもらって。他にはないアイディアだったり、自分ならではの表現でみんな磨いているんですよ。僕がつくるゲームは僕風のゲームなので。アイディアはまだまだあると思うし、いろんな人がやると面白いなって思いますね」

今は、Chat GPTで簡単にゲームがつくれるそう。「ゲームづくりに少しでも関心がある方がいらっしゃれば、連絡してください」と、笑みをこぼす奥村さん。

環境問題は、決してひとりでは解決できない。だからこそ、多くの人が少しずつ取り組み始めたら、良い方向に向かっていけるー。

奥村さんがつくるゲームは、SDGsを自分ごととして考えるきっかけにもなっています。

奥村 :「やっぱりつくったゲームで喜んでほしいし、笑顔を見てるとすごくこっちも嬉しいので。それがやっぱりパワーをもらって、 また次のゲームを作るモチベーションになります」

奥村さんは、今後も新たなゲームづくりや構想に胸を躍らせています。奥村さんがつくったゲームを見たり、体験した子どもたちが、さらなるアイディアを生み出し、それがまた次の世代に繋がっていくー。

これからも、プロ級のものづくりで海ゴミ問題やものづくりの楽しさを伝えていきます。
今回は、鯖江市ならではの「ことづくり」の未来を感じることができました。

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miraimigaki(ミライミガキ)
Instagram: @miraimigaki_enjoy_sustainable
公式HP:https://miraimigaki0.stars.ne.jp/

  1. 福井市にあるアップサイクルの工房 ↩︎
  2. 子どもにものづくりの楽しさを感じてもらうための年1開催イベント ↩︎